
夏が来る前のパリで食しておいたほうがよいものの一つに、牡蠣があげられる。セーヌ川沿いのパリ中心部では、牡蠣専門店が交差点ごとにあると言ったら大げさだろうか。旅に同行したベリッシモ企画担当・M嬢の大好物が、生牡蠣。パリに着いたら何よりもまず、牡蠣を食べようと密かに狙っていたという。
サンジェルマン・デ・プレ界隈は、いつ訪ねても忙しいビジネスマンやファッション関係者、裕福そう紳士・淑女それに世界中から訪れる観光客で大賑わいだ。私たちも、シャルル・ド・ゴール空港から直行したホテルでお勧めの魚介類レストランを教えてもらった。日本時間だと深夜2時を回ったあたりが夕食のスタートだ。

レストラン「ル・プティ・ズィンク」は「フロール」や「ドゥ・マゴ」など有名カフェの近くにあり、夕闇が濃くなるほどにテラス席から埋まっていく。クラシックな店の入り口脇では牡蠣や海老が山積みになり、複数の職人たちが仕込み作業をしている。その無駄のない動きを目にしたら、引き返すわけにはいかない。革コートにマフラー姿でテラス席を囲んでもよかったのだが、予約でいっぱいとのことで、暖かい店内のテーブル席に案内された。

ウェイターのお勧めは、Gillard産の生牡蠣6ピースセット(18ユーロ)と、立派な赤い茹でエビ10匹セット(21ユーロ)。シャブリの白を合わせる。アントレの生クリーム添えムースを食べ終える頃、氷を敷き詰めた皿にレモンつきで盛られてきた。

一口、食べてみてびっくり。牡蠣は小ぶりだが、綺麗な海味の味でプリプリ! 海老は鮮度がよいのか、殻ごとばりばり食べられる。海老好きな私は、もちろん頭も丸ごといただいた。ミソがじつにうまい。余計な味付けは一切なし。お皿の下に添えられたピリ辛マヨネーズをつけながら、黒っぽいパンをお供にいただくのが、こちらのスタイルである。

獲れたばかりの海老や牡蠣を船上で茹でながら食べたら、きっとこんな感じがするのではなかろうか?海岸から遠い内陸のパリでこの鮮度のよさは素晴らしい。牡蠣の専門家から聞いた話はこうだ。 大腸菌などの心配がない綺麗な水で育った牡蠣ならば、水洗いせずに剥きたてをそのまま口に入れるのが一番美味しい。 それが、まさしくこのパリの牡蠣であった。